医療・防災産業の創生に向けた提言

ポスト・コロナの新たな産業創生を目指して(フェーズⅢ)

弊所では、公共政策志向のシンクタンクとして、今なすべきことを考え、またシンクタンクの業態転換も見据え、昨年4月、わが国の医療産業に係る緊急ファクト調査(フェーズⅠ)を実施し、「産業力で医療崩壊を防止する緊急提言―第2波、ポスト・コロナを見据えて」をとりまとめ、公表しました。

その後、本提言で強調した「民間主体の対策を主導するタスクフォース(プラットフォーム)が必要である」という問題意識のもと、「民間のアクション提言」の具体化に向けて、昨秋から本年2月にかけ日本医師会や一部企業の協力による「医商連携」に資する「安全JAPAN」プロジェクト(埼玉モデル:フェーズⅡ)を進めてきたところです。本プロジェクトで使用するコンテナの開発・製造費の調達では、市民一人ひとりが参画・協力する「新しい公共」の仕組みづくりを模索する観点からクラウドファンディング手法を採り、多くの支援金をお寄せ頂きました。

上記取組みをポスト・コロナも見据え、新たな産業創生に資するよう進化・発展させる活動(フェーズⅢ)の観点から、本年2月、弊所内に「医療・防災産業創生協議会」(会長:寺島実郎)を立ち上げ、4月13日に都内で協議会の設立説明会を兼ねたスタートアップミーティングを開催し、本格的に活動を開始しました。

弊協議会では、東日本大震災から10年、新型コロナウイルス対応500日の総括と教訓を踏まえ、戦後築き上げてきた産業構造を考え直すべき時に来ているとの時代認識のもとに、単に経済的な豊かさをもたらす産業から、国民に安全・安心と幸福をもたらす産業へと移行するべきとの考え方を共有しています。わが国は、風水害や地震など多くの災害を経験し、災害列島としての宿命を抱え込んでいるからこその知見や技術の蓄積を有しています。そうした要素を活かして国民の安全・安心と幸福を図り、次の時代に相応しい産業を創生するための知恵や構想力、戦略力を結集することが求められています。

医療と防災を新たな基幹産業と位置づけ、わが国の防災力、産業力を高めるための大きな構想を視界に入れながら、国民の安全・安心と幸福のための具体的なプロジェクトの実装を多彩なパートナーと推進し、医療・防災産業の創生を通じたわが国の再生に向けて積極的な活動に取組むとの方針から、今般「医療・防災産業の創生に向けた提言(中間とりまとめ)」を作成・公表しました。詳細は下記URLをご参照ください。

URL:https://www.jri.or.jp/archives/5735/

提言のポイント

提言内容は、サマリーと本編(第1章から7章、及び参考資料)で構成されています。ここでは、第6章でとりまとめられた「提言(中間段階):ソーシャル・エンジニアリングに向けた行動計画」に絞って紹介します。

提言は、短期、中期、長期の時間軸でとりまとめられ、それぞれ3年、5年、10年をメドに達成する計画です。短期は、先進事業の社会実装(プロジェクト・エンジニアリング)との視界から、⑴高機能・多用途コンテナを軸とした事業展開、⑵医療・防災産業に関するデータの集約とビジネス・マッチング、の主に2つに取組むとの方針です。中期は、制度設計(ルール・メイキング)との視界から、⑴実効性の高い産業振興施策等の実施、⑵オールハザード・アプローチに基づいた危機管理法制の見直し等、に取組むとの方針です。そして長期は、社会のあり方の変革(ソーシャル・デザイン)との視界から、⑴社会的包摂と危機管理の両立メカニズム構築による地域活性化、に取組むとの方針です。

以下では、短期の視界から、「医療・防災産業創生に向けて優先的に取組むプロジェクト」として、シンボリック・プロジェクト(提言1)及びDXプロジェクト(提言2)ついて概説します(下記資料ご参照)。

提言1は、高機能・多用途コンテナと管理運用システムを開発し、「防災道の駅」等への全国展開を通じて、平時の地域力と有事(緊急時)の災害対応力を高めるものです。

具体的には、主に3タイプ(防災道の駅、防災工業団地、病院船)の実装プロジェクト(ハード系)とそれを補完する2タイプ(地方型と大都市型の地域防災力強化)の実装プロジェクト(ソフト面)に取組む方針です。それぞれ「広域防災拠点」、「地域防災拠点」、「海上防災拠点」として位置づけられ、これらハード系とソフト面が官民連携のメカニズムの基に想定する災害対応シナリオ(発災)に応じて個々に機能を発揮するとともに、多様な防災拠点を全国的なネットワークで結び、効率的・効果的に運用できるシステムを通じて、平時・有事共に想定する機能が発揮できることが国土の強靭化、市場規模拡大、医療・防災産業の創生に資するポイントと考えています。

提言2は、協議会として医療・防災に係る情報の集約・共有・発信のデータベース化と防災商社化の機能を発揮するものです。

具体的には、医療・防災に関係する技術・製品・サービス等に係るニーズ、情報(品質・性能・価格等)、生産・供給力、市場動向等のデータを把握・集約・分析し、市場性の確保に向けて国内外の多種多様なユーザーとのビジネス・マッチングを行うことがもう1つのポイントです。

提言1、提言2の実装(3年メド)に向けて、今月より協議会のアドバイザー及び参画企業メンバー等と密接に連携し、「防災道の駅」プロジェクトから先行してリーダー企業を中心に具体的に検討することが確認されたところです。また、オリジナルスタートメンバー(参画企業)の他、上記提言の実効性をより高める観点から、参画企業を増やす活動を並行して行うことも必要と考えています。

結び

本提言(中間とりまとめ)の公表後、7月5日には超党派の国会議員による「医療・防災産業創生推進議員連盟」(会長:齋藤健元農林水産大臣)の設立総会が開催され、弊協議会会長の寺島実郎が特別顧問に就任し、基調講演を行いました(下記新聞記事ご参照)。

設立総会の司会を務められた古川禎久事務局長から、活発な議論が行われたことに感謝するとともに、本議連はプロジェクトの実装を目標に活動していく、との閉会挨拶がありました。

今後は、議連とも連携しながら精力的に協議会活動を推進することが重要との認識です。引き続き多くの皆様に本協議会活動へのご支援等を賜りたくお願い申し上げる次第です。