連合大阪での「幸福度ランキング」に関する講演

労働組合組織からの依頼

先月末(5月29日)、日本労働組合総連合会大阪府連合会(連合大阪)の依頼で「めざすべき地域社会を考える~幸福度ランキングの見方・使い方~」と題して、弊所の研究員と共に講演を行いました。これは連合大阪の政策・制度セミナー「めざすべき地域社会を考える」という企画として、連合のめざすべき社会像である「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けて、大阪府のおかれている状況(ポジション)を客観的に捉える観点から、弊所の最新刊『全47都道府県幸福度ランキング(2016年版)』(東洋経済新報社)に関心をもたれ、大阪の現状を学び、大阪府域における今後の社会基盤づくりの提言に繋げていくために開催されたものです。当日は、労組役員、関係団体役員、自治体関係者、自治体議員など、150人近くがセミナーに参加し、予定時間を超過するほどの質問も出されました。

今回のセミナーにおける2つの特徴

本連載でも紹介済みですが、県民幸福度研究の眼目として「国の創生は地域(地方)の創生」から取組むことが重要との基本認識で研究の蓄積を行っています。このためランキング結果の主なユーザー(本の読み手・使い手)は地方自治体関係者(行政・議会)との考えであり、最終的なユーザーは行政や議会からサービスを受け、参画・協力を求められる地域住民にも広く参考にしてもらいたいと思っています。

こうした想定ターゲットに加えて、最近になり、JCI(日本青年会議所)メンバーからも関心が示され、本研究を参考にJCIでは地域貢献を担う立場から「未来投資指数(JC版QOL)」の研究取組が進められています。そして、今回新たに労働組合からのアプローチがあったことからも「幸福度」が多様な主体にとって、共通する根本的なテーマである証左と改めて認識を深めているところです。

もう1つは、2012年版発刊後、各方面からの講演依頼にできるだけ応じていますが、これまではランキング結果の上位都道府県や関係団体・地域からの依頼が大半でしたが、今回は総合ランキングが47都道府県中44位という大阪府域に係る組合組織からの依頼です(45位青森県、46位沖縄県、47位高知県という全国でも遠隔地にある県を考慮すると、大阪府は事実上最下位と言っても過言ではないと考えられます)。このため講演をする側もなぜ大阪府域が相対的に低くなっているのかなど、講演準備の中身がこれまでとは異なる工夫を要することになり、上位・下位結果の多面的な考察に向けていい経験(勉強)になったと思っています。以下に、講演内容のポイント(工夫点)を中心に紹介します。

大阪関係指標ランキング結果

幸福度ランキング2016年版では、47都道府県(全65指標)、20政令指定都市(全47指標)、42中核市(全39指標)の総合ランキングを発表しています。大阪府域には、大阪府、大阪市・堺市、高槻市・豊中市・東大阪市が該当し、これらを一覧整理したものが下表(スライド)です。

(大阪府)

大阪府は、総合が44位で、基本指標33位、健康分野35位、文化分野8位、仕事分野42位、生活分野44位、教育分野45位となっています。このうち、医療・福祉領域2位、国際領域3位、企業領域14位と、全国と比べて上位になっている指標も見られます。これらの結果(特徴)を基に、大阪の社会基盤づくり(安心社会)を高める観点から、ランキング(指標)の意味するところ(強み・弱点)、そしていかに促進・改善するかなど、3つの分野(健康、仕事、生活)を重点に後述します。

(大阪市・堺市)

大阪市は、総合が20位(最下位)、基本指標18位、健康分野20位、文化分野2位、仕事分野12位、生活分野20位、教育分野20位となっています。このうち、医療・福祉領域3位、国際領域2位、企業領域2位と、全国と比べて上位になっている指標も見られます。これらの結果(特徴)は大阪府と同様な傾向にあり、同じくランキング(指標)の読み方・使い方を考察します。

堺市は、総合が17位、基本指標7位、健康分野17位、文化分野18位、仕事分野19位、生活分野16位、教育分野18位となっています。全体的に赤枠(他政令市と比較して下位5位以内の指標)が多くなっています。

(高槻市・豊中市・東大阪市)

高槻市は、特に教育分野、豊中市は、基本、教育(学校)領域が高くなっています。東大阪市は、医療・福祉領域、国際領域が上位になっており、大阪府や大阪市と類似する傾向にあります。

大阪府域の社会基盤づくりに向けた3つの示唆

工夫点の1つとして、安心社会の実現に向けて、①分野毎の各指標(例えば上位指標)をどのように読み・伸ばすか、その優位なポテンシャルを関連指標(例えば下位指標)の改善にどのように生かすか、②類似地域(三大都市圏間)との比較を通じて各指標を客観的に捉え、どのように読み・改善するか、③府域内共通指標の評価から読み取る他指標との関係性とその対策、の大きく3つの視点から、健康、仕事、生活分野について考察します。

① 健康分野

医療・福祉領域の先行指標の1つである「ホームヘルパー数」について、大阪府、 大阪市、堺市、東大阪市ともに全国で1位、2位という順位になっており、これは在宅での介護ケアの基盤が充実していると考えられます。一方、高槻市、豊中市は、相対的に順位が低く、むしろ公的医療機関や介護施設等が充実していると考えられます。この両者から、前者は相対的に一人あたり医療費が少なく、後者は多い傾向が見られます。

これは今後迎える「異次元の高齢化」社会における医療・介護のあり方において、他県に比べ、国が推進する在宅での介護や医療への対応の面からも多様なポテンシャルを有しており、各自治体の強みや特徴を十分に考慮した環境整備・施策推進が重要です。

一方、運動・体力領域の先行指標の1つである「体育・スポーツ施設数」について、大阪府以下全自治体で低い順位であり、府域内の地域住民の健康づくりに向けた積極的な施策推進の必要性と併せて、なぜハード面の充実ができていないか、医療・福祉面の強みをいかに健康づくりに生かすかなど、複眼的な思考からの課題解決が求められます。

② 仕事分野

雇用領域の現行指標である「若者完全失業率」と「正規雇用者比率」、先行指標の1つである「高齢者有業率」について、三大都市圏の主な都県と比較したのが下表(スライド)です。

大阪府の「若者完全失業」は、東京、神奈川、愛知各都県に比べてかなり高くなっています。「正規雇用者比率」、「高齢者有業率」も相対的に低い結果となっています。これは若者の雇用環境と就労環境の安定性向上が現下の課題であり、今後迎える「異次元の高齢化」社会に向けては、高齢者がいきいきと働ける環境が整備された地域社会を目指すことが重要です。また、大阪の指標改善の面では東京、神奈川、愛知が有するそれぞれの優位条件の分析もヒントにすることが必要です。

③ 生活分野

生活分野及び個人(家族)領域の現行指標の1つである「生活保護受給率」について、大阪府、大阪市・堺市、東大阪市を一覧整理したのが下表(スライド)です。

いずれも赤枠が大半であり、都道府県、政令市、中核市の中で大阪府域の生活分野(個人、地域とも)の環境が低い結果になっています。中でも、「生活保護受給率」は、大阪府、大阪市が最下位、堺市、東大阪市も最下位に近い順位です。

大阪府のこの指標を過去3冊(2012、14、16年版)のランキング結果の推移で見ると、31位から14年版で47位(最下位)に転落後、47位が続いています。また、この間に基本指標の1つである「財政健全度」も24位、38位、41位へと順位を下げています。

これは大阪府において、リーマンショック以降、高齢者世帯、母子世帯、傷病者・障がい者世帯以外の生活保護受給世帯が急増し、財政健全度のランキングの低下の原因も生活保護受給世帯の増加が一因と考えられます。大阪府内にとどまらず、実質的に府外からの生活保護受給対象者の受け入れも行っている現状に鑑み、各個人・家族の居室空間の確保や経済的な自立促進という課題への取組について、国等への積極的な関与(協力)を求める提言等を行うことも必要です。

時系列(経年変化)からの考察(上昇した指標と下降した指標)

上で考察した生活保護受給率や財政健全度の経年変化(3時点)から、ランキング指標の上昇、下降が読み取れ、これまでの施策の評価や傾向が順位として客観的に把握できます。そして地域の現状(何が起こっているか)についての気づきにもつながります。このことは、経験やカンから、科学的・客観的なデータによる全体知を踏まえた政策・施策、提言等の立案・とりまとめや地域住民への論理的説明が可能になり、政策・施策等に係る優先順位・有用性の判断にも応用できます。

(大きく上昇した指標)

大阪府のランキング推移について、3時点(2012、14、16年版)を比較し2桁を超えて上昇した指標は、

  • 基本指標「選挙投票率(国政選挙)」が43位、32位、28位と15ランク上昇
  • 文化分野「教養・娯楽(サービス)支出額」が32位、13位、16位と16ランク上昇
  • 文化分野「語学教室にかける金額」が32位、31位、20位と12ランク上昇

の3指標です。総合順位が44位の中で、文化分野は11位、10位、8位と高くなっていることが特徴です。

(大きく下降した指標)

一方、3時点(2012、14、16年版)を比較し2桁を超えて下降した指標は、

  • 基本指標「財政健全度)」が24位、38位、41位と17ランク下降
  • 健康分野「気分[感情]障害(うつ等)受療者数」が2位、2位、22位と20ランク下降
  • 健康分野「スポーツの活動時間」が10位、10位、20位と10ランク下降
  • 文化分野「学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動を行うNPO認証数」が36位、32位、47位と11ランク下降
  • 生活分野「生活保護受給率」が31位、47位、47位と16ランク下降
  • 教育分野「不登校児童生徒率」が32位、35位、42位と10ランク下降
  • 教育分野「学童保育設置率」が13位、17位、23位と10ランク下降

の7指標です。基本指標、仕事を除く分野別指標全てで大きく下降したことが、総合順位を42位、43位、44位と低下させたものと思われます。こうした指標毎に経年変化を見ることで、地域で何が起こっているかなど過去5年間に取組んだ施策の適格性や効果等の評価を行うことが可能です。また、個別指標の改善にとどまらず、関係性の深い指標間(ホームヘルパー数と体育・スポーツ施設数、財政健全度と生活保護受給率など)の因果関係等にも踏み込んだ、さらに現行及び先行指標の推移も加味した複眼的な分析と対策が順位を改善し、今後の安心社会の実現に繋がるものと考えています。

結び(主な意見と今後への示唆)

講演会場や終了後の労組役員との懇談の場で、活発な質問や意見が出されましたが、主なものを紹介します。

  • 幸福度ランキングの結果から都道府県間の格差が見えるように思うが、今後そうした視点から個別指標の分析や研究を深める予定はあるか。
  • インバウンド需要が増え、大阪は外国人来訪者でにぎわっており大阪の魅力が外国人来訪者を引きつけていると思うが、そうした視点を加味した指標づくりも検討してはどうか。
  • ホームヘルパー数が上位であることは好ましいが、ヘルパーの労働・就業環境はあまり良いとはいえない。そうした状況も今後研究の中で議論・考察してほしい。
  • 指標は1つ1つ単体で見るだけでなく、複合的に集計・分析することも重要ではないか。今回、移住者の幸福という観点から、複数指標で集計・分析していることを、さらに多くのテーマ(事例)まで増やして集計・分析してもらえると参考になる。
  • 次回出版の際には、是非労働組合加入率も指標として検討してほしい。福井県が総 合1位になっているが、福井県の日教組の組合加入率は全国でも高く、教育分野で1位になっていることはその証左とも考えられないか。

こうした質問や意見なども、次回第4弾の刊行に向けて参考にしたいと考えています。重要なことは、地域で何が起こっているか、時代との併走とより現場に繋がる考察の視点を一層研ぎ澄ませ、深めることが必要と感じています。