2つの県(山形、沖縄)の幸福度ランキング

山形県の幸福度ランキング

本年6月11日と10月17日に山形県の幸福度ランキングについて講演を行いました。前者は東京での吉村美栄子知事が主催する県政懇談会で、「全47都道府県幸福度ランキングの概要―山形県の目指すべき持続的な発展方向への活用」と題してお話をしました。本県政懇談会は山形県と深い関わりのある主に東京在住の有識者(10名余)をメンバーに年2回程度、その都度の重要な事項(県政運営等)について県(知事)側が説明し、有識者が意見を述べるという場のようです。丁度来年度から始まる次期長期発展計画(10年計画)の策定が進められており、弊所の県民幸福度研究のランキング結果(2018年版)が、今後の計画策定、特に持続的な発展の方向を検討する上で、参考にしたいとの意向もあり、ゲストスピーカーとして招かれたものです。

また、この場をきっかけに吉村知事のはからいもあり、10月に山形経済同友会の例会(山形市内)で講演する機会を頂きました。同友会事務局から、経済人の集まりであり、幸福度ランキング結果から見て特に地域活性化や観光振興を通じた地方創生を中心に話をしてほしいとの依頼内容でした。例会参加者は、地元企業経営者、山形に工場・支店等をもつ全国の企業関係者が集まっており、伝統と格式を感じる雰囲気の例会でした。以下に、県政懇談会および経済同友会における講演での様子の主なポイントを紹介します。

県政懇談会

弊所では地方創生に資する県民幸福度研究の成果として、これまでに4冊(2012年、14年、16年、18年版)にわたり「全47都道府県幸福度ランキング」として東洋経済新報社より発刊を重ねてきています。最新の2018年版では、山形県が北日本(北海道・東北)で初めてトップ10に入り、2012年版からの4時点では、31位、27位、22位、10位と着実に順位を伸ばしており、本研究を行う側としては、山形県は日本一の上昇県と評価しています。このため、山形県の関係者に研究成果を一度お話する機会を模索していたタイミングに、知事の方からお声がけを頂いた次第です。

知事は、直近までこの本を承知していなかったようですが、東京の企業経営者から紹介され、すぐに読まれたところ、とても関心を持たれたそうです。特に、ご自身が知事就任後3期にわたり積み重ねてきた県政運営に照らして、示唆に富むとのお考えのようです。また、山形県にとどまらず、日本海側の各県が上位にランクされていることも興味深いとの感想です。知事としては、山形県との縁が深い有識者メンバーにランキング結果も共有しつつ、次期長期発展計画の策定や県政運営において、有用なご助言等を期待しておられたようにお見受けしました。

有識者メンバーからは、多くの質問やコメントを頂きました。特に、70の客観的指標から山形を見ることで、気づかなかったこと、強みや課題に係る納得・賛同することなど順位を含め多面的かつ具体的に時系列で確認できることが、県政運営等の論議を論理的に深める上で有用なエビデンスを提供しているように思うとの発言も頂きました。このような機会を通じて、弊所の県民幸福度研究の成果が県の計画や運営に活かされ、地方創生の進展にも貢献ができることは、公益的なシンクタンクとして有益なことと思っています。

山形経済同友会10月例会

山形市内のホテルにて、毎月例会が開催され、会員や関係者の情報共有と親睦の場としてその都度の関心事項についてゲスト等から話を聞くとともに、同友会として必要な政策提言等をとりまとめ、地域経済の振興などに貢献する諸活動を行っているようです。鈴木代表幹事による講師紹介の中で、吉村知事からの仲介、さらに知事が県内各所での集まりの機会に、幸福度ランキングの話題を積極的に話されることが多いとのことで、経済界としても直接関係者から話を聞きたいとのことで、今回の企画になったとのお話でした。

私からは、「幸福度ランキングからみる山形の特徴~地域活性化や観光振興を通じた地方創生に向けて~」と題して約1時間講演を行いました。講演全体の構成は、前半と後半に分かれ、前半では、イントロとして2011年の東日本大震災を契機に国の再生は地方の再生からをモットーに幸福度研究を継続、積み上げている趣旨を説明し、続いて我が国の閉塞感(現下の社会経済状況)、2018年版のねらいとポイント、書籍構成、指標と解析方法、ランキング結果についてお話しました。後半では、ランキング結果からみる山形の特徴、山形の持続的な発展への活用、結びとして経済界の貢献についてお話しました。以下に、主に後半部分の講演のポイントを紹介します。

●山形の特徴~北日本(北海道・東北)初のTop10

2018年版では総合ランキングが10位に上昇し、2012年版と比べて順位を21位伸ばしました。分野別でも、基本指標が14位から3位(11位上昇)、健康が41位から32位(9位上昇)、文化が33位から15位(18位上昇)、仕事が33位から21位(12位上昇)、生活が11位から8位(3位上昇)、教育が24位から23位(1位上昇)と、すべての分野で上昇しており、その結果として総合ランキングが10位になったものと考えています。また、個別指標を見ても、多くの指標が伸びており、特に山形の持続的な発展や地域の活性化に資する指標(大学進路未定者率、生活保護受給率、正規雇用者比率、一人暮らし高齢者率など)に大幅な改善や強みがみられ、官民が連携して今後の山形の多様な取組を推進する上で重要な基盤を有していると考えられます(スライド1参照)。

↑ スライド1:山形の特徴~北日本(北海道・東北)初のTop10

一方、顕著な上昇にある山形ですが、さらなる改善に向けては、課題もみられます。例えば、1つの特徴として、現行指標と先行指標の極端なコントラストです。現行指標が高いものの先行指標が低い分野(仕事、生活、教育)があり、山形の持続的な発展において、注視が必要です。特に、幸福度の重要な要素として入口(教育)と出口(仕事)の両立がランキング向上の基盤でもあり、現状を踏まえ持続的な発展の方向を考える上で、先行指標(仕事31位、教育41位)への対応が大きな課題です(スライド2参照)。

↑ スライド2:山形の特徴~北日本(北海道・東北)初のTop10、【特徴】現行指標と先行指標の極端なコントラスト

●山形の持続的な発展への活用~仕事(企業)分野を例に

仕事分野の先行指標は31位ですが、特に企業領域は事業所新設率が47位、特許等出願件数が35位、さらに製造業労働生産性が41位など、企業領域(46位)の改善が必要です。こうした指標から、今後の山形の産業振興の視点として、製造業の強化、脱工業生産力モデル(ポスト製造業)への挑戦と育成が重要であり、官民連携して産業の高付加価値化と新産業創出に優先的に取組むことが課題です(スライド3参照)。

↑ スライド3:山形の持続的な発展への活用~仕事(企業)分野を例に

●山形の持続的な発展への活用~教育(学校)分野を例に

教育分野の先行指標は41位ですが、特に司書教諭発令率が38位、大学進学率が35位、さらに学力が36位など、学校領域(34位)の改善が必要です。こうした指標から、今後の山形の教育振興の視点として、学校教育における基礎学力の強化、企業が大学等と連携した次世代産業を見据えた人材の育成が重要です。例えば、学力などで高順位にある秋田県(3位)、青森県(7位)、教育分野すべてで上位を占める北陸3県(福井、富山、石川)などの取組も参考に基礎学力の向上を目指すとともに、産官学が協力して次世代産業(高付加価値型観光・サービス産業に資する高度人材の育成・確保など)を見据えた将来世代の人材育成を重点的に行うことも必要です(スライド4参照)。

↑ スライド4:山形の持続的な発展への活用~教育(学校)分野を例に

●経済界(企業)の貢献

企業領域や学校領域の個別指標では、全国と比べて相対的に低く計画的な課題対応が必要ですが、生活の豊かさを収入面でみる勤労者可処分所得(二人以上の世帯)では、山形は全国や東北地方よりも高く、正規雇用者比率(全国1位)と合わせて、地域に産業と雇用基盤が根付いている証左でもあり、幸福度向上において重要な要素と考えています。2012年から4時点での顕著なランキングの上昇は、こうした所得や正規雇用を維持、向上させる上で経済界(企業)の貢献が大きく、ランキング結果の特徴や課題を共有し、山形の持続的な発展に向けて、今後も経済界が積極的な役割を担うことが期待されるところです(スライド5参照)。

↑ スライド5:経済界(企業)の貢献

講演後、質疑が行われ、最後に後藤副代表幹事から、山形は落ち着いた雰囲気で、何を食べても美味しい、住めば都と感じており、幸福度ランキングの向上はとても歓迎するところであり、多くの皆さんに来訪や移住してほしい、との内容の講評が行われ閉会しました。副代表幹事からは、閉会後他地域の経済界の活動についてお尋ねがあり、特に北陸経済連合会による弊所の幸福度研究を参照した調査事例(「日本一の幸福度」北陸)をご紹介したところ、山形でも参考にしたいとのことです。

沖縄県の幸福度ランキング

山形での講演に続き、11月19日には一般社団法人勁草塾(代表理事齋藤勁氏)が主催する沖縄勁草塾の勉強会に招かれ、「全国47都道府県幸福度ランキング(2018年版)から沖縄を見る」と題して約1時間お話をしました。那覇市内の会場には、連合沖縄会長をはじめ県庁(行政)、金融機関、企業、労働団体、議会議員、地元紙関係者ら約50名が参加され、意見交換も行われました。開会にあたり、代表理事より「全国の多くの自治体は、1年おきに発行される幸福度ランキングに強い関心をもち、政策づくりに向け参考にしている。自らを知る、他を知るためにも、是非このランキングを活用し、沖縄の地域振興に活かしてほしい」とのことで、私の講演に期待するとの紹介を頂きました。

私からは、山形経済同友会での講演内容の前半を踏襲し、後半では、沖縄の特徴(最下位からの脱出、上昇の兆し)、沖縄の発展への活用(ネガティブ分野改善、ポジティブ分野伸長の視点)、結びとしてランキング活用のポイント、さらにポジティブ分野を活かしたシンガポールモデルの考察についてお話しました。以下に、後半の講演の要点を紹介します。

●沖縄の特徴~最下位からの脱出、上昇の兆し

沖縄県は2012年、14年版では総合ランキングが47位(最下位)でしたが、16年版では46位、18年版では45位へと2つ順位を伸ばしました。分野別でも、基本指標が36位から13位(23位上昇)、健康が15位から4位(11位上昇)、文化が45位から29位(16位上昇)と順位を伸ばす一方で、仕事、生活、教育の各分野は2012年版から連続して47位のままです。順位を伸ばし全国との相対比較でも上位のポジティブな分野と連続して最下位のネガティブな分野がきわだっており、一定の強み(魅力)と弱点(課題)を客観的に見極めたシナリオの基に地域振興策を検討することが必要です。

上昇の兆しとして、個別指標を見ると、主に健康や文化分野で指標が伸びており、特に沖縄の魅力を活かし地域振興に資する指標(海外渡航者数、留学生数、外国人宿泊者数、訪日外国人客消費単価、スポーツの活動時間、平均歩数、事業所新設率など)に大幅な改善や強みがみられます。こうした優位な分野を先導シナリオとして、関係者が連携し積極的な取組を推進する上で一定の基盤を持っていると考えています(スライド6参照)。

↑ スライド6:沖縄の特徴~最下位からの脱出、上昇の兆し

●沖縄の発展への活用(ネガティブ分野改善の視点)~仕事(雇用)分野を例に

仕事分野は現行、先行指標ともに47位で、特に雇用領域は若者完全失業率、正規雇用者比率、高齢者有業率、大卒者進路未定者率がいずれも47位、さらに製造業労働生産性が47位など、主に雇用の長期安定・改善に向けた具体的な仕組み等を検討することが必要です。こうした指標から、今後の沖縄の産業振興と雇用環境改善の視点として、労働生産性(特に中小企業)の強化、新産業の育成(健康と観光を軸に)が重要と考えています。

企業の労働生産性の低さは、労働条件・労働環境の悪化を生み、若者の雇用の不安定化や非正規雇用の増加、高齢者の労働離れなど「悪循環」を招来しており、製品の高付加価値化やIT等の活用による効率化、戦略的なM&Aを官民一体で進めるなど、県内企業の競争力向上のための対策が必要です。また、既存産業の強化に加え、モノからサービス・ソリューションへの付加価値の移行などに対応し、新たな構想に基づく産業を創出・育成することも必要であり、官民が連携してこの分野に優先的に取組むことが求められます(スライド7参照)。

↑ スライド7:沖縄の発展への活用~仕事(雇用)分野を例に

●沖縄の発展への活用(ネガティブ分野改善の視点)~教育(学校)分野を例に

教育分野の現行指標は46位、先行指標は42位ですが、子どもたちが、自立した個人として将来社会を生き抜く教養や素養を身につける学校教育の充足度や将来の可能性を広げ、幸福感や満足度の高い人生を歩むことができる教育環境の充実度を測る学校領域が47位です。教育(学校領域)の弱さは、将来世代育成の面で大きな懸念があり、最も重点的な対応が求められます。特に、学力が47位、大学進学率が47位、不登校児童生徒率が45位、さらに余裕教室活用率が41位などの改善が必要です。

こうした指標から、今後の沖縄の教育振興の視点として、学校教育における基礎学力の強化、次世代を見据えた人材を社会全体で育成することが重要です。例えば、教育分野で1位を占める福井県の取組(グローバル人材育成の仕組、児童・生徒(父母同伴)のインターンシップを兼ねた地場企業見学、校長・教頭の組合加入等)も参考に基礎学力の向上を目指すとともに、産官学が協力して新たな構想に基づく次世代産業の創出による雇用確保等につながる人材育成を最優先に行うことも必要です(スライド8参照)。

↑ スライド8:沖縄の発展への活用~教育(学校)分野を例に

●沖縄の発展への活用(ポジティブ分野伸長の視点)~健康・文化(国際)分野を例に

社会生活を送る上で基本的な要素で、かつ最も欠かせない基盤である健康分野、人々の豊かな人間性を育むなど、人々がともに生きるため欠かすことのできない基盤である文化分野では上位の指標が多く、沖縄の強み(魅力)を活かした地域振興の取組が積極的に推進できると考えています。特に、医療・福祉領域が6位、運動・体力が4位、国際領域が10位と上位を占めており、これら両分野の強みを融和させ、さらに伸ばしていく戦略的視点が必要です。

具体的には、健康と観光を結びつけたヘルスツーリズムの推進、アジアダイナミズムを取り込む観光人材の育成への対応が重要です。例えば、沖縄の自然豊かな環境の中で心身の健康を維持・増進し、生活習慣を見直すきっかけとするヘルスツーリズムとしてカスタマイズするとともに、沖縄ならではの健康をテーマとした「医食同源」に基づくハイエンドな食文化による観光振興も重要な視点と考えられます。さらに、インバウンドの85%がアジアからであること、経済発展が著しいアジアからの観光客は個人旅行へシフトしていくことを見越し、観光の高付加価値化を図るとともに、官民協力の基に高度観光人材を育成することで、強みを活かした新戦略(好循環)による地域振興につなげることが重要です(スライド9参照)。

↑ スライド9:沖縄の発展への活用~健康・文化(国際)分野を例に

●ランキング活用のポイント、シンガポールモデルの考察

幸福度ランキング活用の眼目は、次の2つがポイントと考えています。

  • 科学的・客観的データに基づく現状把握と具体のエビデンスの取得が可能
  • 新たな気づきとエビデンスが沖縄の発展に向けた論理的な議論・視界を深め、明確な優先順位(シナリオ)を通じたステークホルダー(関係諸氏)による戦略・効率的なアクションとサービスに繋がる

との観点です。
沖縄県では、2022年に復帰後半世紀を迎えることから、次期沖縄振興開発計画を主体的に策定することになっています。本年7月の沖縄21世紀ビジョン基本計画の総点検結果も踏まえ、沖縄が有する魅力(ポテンシャル)を客観的に把握し、明確なシナリオの基に新たな構想から地域振興に資する開発計画の取りまとめが期待されるところです。

シンガポールは、高付加価値型の産業とサービスにより、最新の一人あたりGDPは6.5万ドル(日本は4.1万ドル)で、アジアでトップにランクする経済発展を実現しています。これは、主にITや医療・ヘルスケア、観光、ロジスティクスなどの様々な産業・サービスを結びつける場と装置を提供し、高付加価値化を生み出すことで成長を達成しており、沖縄の持つ優位性(健康・国際領域、自然、東アジアの中心など)を活かした地域振興を検討する上で、またアジアダイナミズムを最大限に取り込む視点からも、シンガポールモデルの考察が示唆に富むと考えています。

講演後、質疑が行われましたが、その主なものは以下のとおりです。

  • 移動について、沖縄には新幹線や高速道路もなく、本島と離島との交通面でも制約がある。移動に制約があるのは幸福度からも不利ではないか。
  • 製造業の労働生産性とは別に、全産業の労働生産性も測ってはどうか。
  • 沖縄県人は明るく、自然も美しく、県外からくる客にうらやましいと言われる。こうした沖縄の魅力をもっと指標に取り入れてほしい。
  • 観光業の振興の面でハワイを参考に検討を進めているが、シンガポールモデルの方が新たな産業づくりという点ではより参考になるように思う。
  • 小中学校の教員の人気が近年上昇しているので、教育の質とともに今後学校領域のランキングが改善されことを期待している。
  • 米軍基地の大半が沖縄にあることの指標化は考えられないか。

結び

山形、沖縄の幸福度ランキングについての講演、質疑等から、私自身も新たな気づきや指標開発などで宿題を頂くことになりました。山形、沖縄両県による次期長期発展計画等の策定、経済界等による地域活性化や地方創生への積極的な貢献など、弊所の幸福度研究が目論む実践的な取組ともより親和性が見られ、いっそうの研鑽が求められていると再認識をした次第です。

来年の2020年版の発刊に向けては、今度で5冊目を数えることから、県民幸福度研究に関する一定の完成形となるよう、分析や指標活用を通じた効果(幸福度の見える化)による地方創生の実証に資する構成とすることが必要と考えています。発刊に関わる関係者と認識を共有し、既刊版以上にインパクトの強い2020年版とする方針です。どうぞご期待頂ければ幸いです。