未来創造企業の評価基準づくり

ソーシャルイノベーション企業350社が集結

先月21日、経営実践研究会(本部大阪、理事長:藤岡俊雄氏)の主催による「NATIONAL FORUM 2018」が東京渋谷区内にて開催されました。本フォーラムは年次大会の位置づけで、研究会会員企業(主にベンチャー系中小企業)を中心にソーシャルイノベーションを実践(挑戦)する350社が全国から集結し、企画・プログラムが充実していたため、基調講演、会員プレゼン、パネル討論などの全てにおいて経営者の自信に満ちた発言内容は、共感する参加者の熱気と合わせて、とても印象深く有益な時間を過ごすことができました。

私は、プログラムの中盤に設定された「未来創造企業による社会変革―新たな企業の評価制度」と題する発表の中で、弊所が依頼を受け研究開発を進めている「未来創造企業の評価基準づくり」の検討状況についてお話をしました。以下にその概要を紹介します。

未来創造企業の評価制度と定義の検討に係るサーベイ

10年、20年はもとより、30年後も存続・発展する新たな企業、すなわち「未来創造企業」の評価制度を策定するには、時代的趨勢と全体知の視点から、経営者にとって具体的で納得のいく基準が求められます。同時に、未来創造企業とはどのような企業であるか、その定義を固めることも必要です。

このため検討のステップとして、世界と日本における先行・先進事例のサーベイを行いました。世界のサーベイでは、主に国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」における企業が果たすべき役割、英国や米国の代表的な民間評価機関による「ESG投資」に係る評価指標や評価方法の詳細、さらにMポーター教授が説く「共通価値の創造(CSV)」など様々な学説を含め幅広く整理・検討を行いました。

日本のサーベイでは、主に政府の未来投資会議における「Society 5.0」の実現に向けた議論や取組状況、日本青年会議所(JC)が2017年2月に策定・発表した25項目により企業活動を評価する「未来投資指数(JC版QOL)」、中部経済連合会が2018年2月に検討・公表した政府の「Society 5.0」に呼応する中部圏としての将来ビジョン「中部圏5.0」(本検討は「放言高論」No.9、2017.12で紹介)などの詳細を整理・検討しました。

そしてこれらサーベイに加え、弊所が4回シリーズで発刊している県民幸福度研究の作品である『全47都道府県幸福度ランキング(2012、14、16、18年版)』の知見等を踏まえ、未来創造企業の概念を整理・検討し定義を固めました。

未来創造企業の定義とは

未来創造企業の定義として、基軸コンセプトは“サスティナブル”で、キーワードは“経済的価値“と“社会的価値“を融合する企業の在り方で、現段階では次の3つがポイントと考えています。

  • 事業の主目的は本業を通じた社会課題解決(利益は結果として発生)
  • 社会課題解決で社会の価値や関係主体の幸福度が向上
  • 最終的に経済的価値も向上し、企業は持続して事業が可能

これらを定義として、文章化すると「『本業を通じた継続的な社会課題の解決』を事業目的の第一に掲げ、その実践により社会の価値や人々の幸福度を向上させ、よりよい社会を創り出すだけでなく、実践の結果生まれる利益を適切に分配(従業員等へ)するとともに、未来へ再投資することで持続的な発展に努める企業」です。

未来創造企業の評価体系と評価指標

未来創造企業の評価体系として、2層構造を想定しています。1つは経営理念とビジョンの掲示・表明による“前提条件“、もう1つは経済的価値と社会的価値を融合・評価する多数の指標による”評価指標“です(下図参照)。

前提条件の「経営理念」は、経営者が基本的価値観や信念を表明したものであり、企業経営の根幹を成し、全ての意思決定と経営行動を判断する基準です。「ビジョン」は、実現したい将来の姿(企業像)です。未来創造企業としての評価を望む企業は、これらの前提条件を掲示し、広く社会に表明(コミット)することが求められます。

評価指標は、従来の企業評価で重視されてきた視点(財務・会計面で見た企業価値である「経済的価値」)と未来創造企業で注目・重視する視点(社会変革・社会課題解決を本業とした企業価値である「社会的価値」)の融合から判断する指標です。

大事なことは、従来は利益を多く出す企業が高い評価を得て来ましたが、企業活動の全てのアウトプット(排出物等)を合計すると負のアウトプットと評価される企業が存在します。こうした企業の活動を再評価する必要があり、未来創造企業における評価基準では、負のアウトプットを最小化する活動を正当に評価することにも意義があると考えています。

評価指標の全体構造(フレーム)

未来創造企業の評価指標の全体構造(フレーム)は、現段階で下図のようなマトリックスを考えています。たて軸では、未来創造企業が創出する「価値や幸福度」について、評価対象を7分野(地球、社会、地域、顧客、取引先、従業員(家族)、経営者)に設定し、それぞれ大項目(領域)と細項目で構成する予定です。よこ軸では、大項目は2つの領域に分かれ、領域ごとに5つの指標(細項目)から成り、全体で70指標を想定しています。

未来創造企業が創出する価値・幸福度は、「社会的価値」(地球・社会・地域が対象)、「関係主体幸福度」(顧客・取引先・従業員(家族)が対象)、及び経営者が前提条件(経営理念・ビジョン)に従って経営することで生み出す「社会・経済的価値」の3要素に大別されます。それぞれの価値・幸福度は、「公益」、「共益」、「私益(未来創造益)」として、経営者がそれに見合う経営活動を行うことが期待され、求められます(下図参照)。

現在、上記の全体構造に基づき14領域の細項目について、持続可能な社会的進歩・発展の面で促進的(ポジティブ)な活動内容・取組を評価する3指標、負荷的(ネガティブ)な活動内容・取組を評価する2指標、をそれぞれ設定する方針で検討を進めています。細項目の設定後は評価点の算出方法などが次の検討ステップとして重要な研究作業と考えています。

結び

未来創造企業の評価基準づくりの状況をFORUM 2018の場で発表する機会を得ましたが、350社の経営者が集結し自信と活気にあふれる会場の雰囲気を見ると、こうした会員企業を束ねるキーパーソンの役割と大切さを再認識しているところです。企業が本業で社会課題解決にチャレンジする未来創造企業が確実に増えることで、企業自身の継続・発展とともに、社会変革が起こることがまさに日本に求められる“サスティナブル“というコンセプトに着実に繋がるものと考えています。こうした活動の客観的な評価基準づくりに公益的なシンクタンクとして参画することは、とても重要なミッションと認識しています。

FORUM後に別会場で大懇親会が開催され、多くの参加者から私の発表について関心と期待が寄せられ、また後日複数の参加者から、「この評価項目を主軸に経営計画を策定すると、社会課題を解決する企業が増えていきます。ぜひ普及させていただきたいと願っております。」との丁重な内容のお便りを頂きました。

今秋を目途に1年目の評価基準づくりを完成させ、11月(東京)、12月(大阪)の「SUSTAINABLE COMPANY FORUM」で参加企業の経営者の方々にご判断頂く予定です。