県民幸福度研究第3弾 ―『47都道府県幸福度ランキング(2016年版)』の紹介

幸福度研究のきっかけ

本年8月、弊所の会長寺島実郎監修、日本総合研究所編、日本ユニシス総合技術研究所システム分析協力『47都道府県幸福度ランキング(2016年版)』が東洋経済新報社より刊行されました。この本は、『日本でいちばんいい県―都道府県幸福度ランキング(2012年版)』、『全47都道府県幸福度ランキング(2014年版)』に続く3冊目の出版になります。

弊所が県民幸福度研究をスタートした理由は、日本が成熟した社会になる中で、人間の豊かさとは物やお金なのか。もっと違う部分に、尊い豊かさを感じさせる要素があるのでは、との問題意識がきっかけです。特に、今の若い世代にとっての価値は、必ずしも経済的豊かさや発展ではなく、生活の中身が時代に合った形に変容してきています。こうした変化は必ずしも悪い方向ではなく、大量生産、大量消費から、エネルギーや環境と美しく調和する方向に進んでいると考えられます。

日本には、「21世紀型」の生活スタイルを実現する国土や国民性があり、幸福の在り方を追求し、世界に向けて新しい価値を発信できることはとても重要な日本の貢献でもあります。また、地域に住む一人ひとりが自分の持つ能力や役割を果たすことで幸福を感じ、その結果地域や社会が元気になり、地方や日本の創生にもつながると考え、公共政策志向のシンクタンクとして継続した研究とともに、その成果の作品化(出版)を進めているところです。

幸福度ランキング2016年版における進化

本書では、これまでの2冊の成果に加え、主に4つの点について進化した内容構成になっています。第1は、より多面的に地域の幸福を図る観点から5つの指標を追加しています。第2は、47都道府県に加えて政令指定都市(20市)、中核市(42市)の基礎自治体ランキングも初めて発表しています。第3は、「移住者の幸福」、「女性の活躍に向けて」という地方創生にとって重要な政策課題を分析する観点から、全65指標を複数の指標を組み合わせてランキングを行っています。第4は、地域社会が力を合わせて立ち向かうテーマとして、「IoT(Internet of Things)」、「観光立国」、「高齢者の社会参画」の3テーマについて国内外の参考事例等を紹介し、高質な行政サービスや地域活性化に資するヒントを提供しています。以下に主に第1から第3の概要を紹介します。

(1)より多面的に地域の幸福を図る5つの指標を追加

幸福度ランキング2012年版では、55指標(基本指標:5指標、分野別指標:50指標)、幸福度ランキング2014年版では、60指標(基本指標:5指標、分野別指標:50指標、追加指標:5指標)から都道府県の総合ランキングを発表しています。これに加えて、2016年版では、「合計特殊出生率」、「自主防災組織活動カバー率」、「刑法犯認知件数」、「農業の付加価値創出額」、「勤労者世帯可処分所得」の5つの指標を追加し、全65指標から総合ランキングを行っています。

いずれのランキングでも、2012年版の55指標は動かさずに、これをベースにその時々の社会経済状況等を勘案し、また地方自治体関係者との意見交換等も踏まえ、必要と考えられる指標を追加することで幸福度研究のレベルアップを進めているところです(表1「都道府県ランキング指標の進化」参照)。

表1「都道府県ランキング指標の進化」

2016年版の総合ランキングの結果は、福井県が1位、東京都が2位、富山県が3位、長野県が4位、石川県が5位で、上位5位までに北陸3県がすべて入っています。北陸各県は、正規雇用者比率、持ち家比率、学力など仕事、生活、教育分野での順位が全国と比べて相対的に高いことが要因と考えられます。徳島県は、43位(2012年版)、42位(2014年版)から、2016年版では37位に上昇しています。この要因としては、産科・産婦人科医師数、ホームヘルパー数(医療・福祉領域)、正規雇用者比率(雇用領域)、製造業労働生産性(企業領域)でそれぞれ全国でも上位5位までに入っていることが要因と考えられます(表2「2016年版 都道府県ランキング(総合順位)」参照)。

表2「2016年版 都道府県ランキング(総合順位)」

(2)基礎自治体ランキングの発表

2016年版では、都道府県に加えて政令指定都市(20市)、中核市(42市)の基礎自治体ランキングも初めて発表しています。政令指定都市は基本指標(7指標)、分野別指標(40指標)の全47指標で、中核市は基本指標(6指標)、分野別指標(33指標)の全39指標で、それぞれ総合ランキングを行っています。本書で初めて基礎自治体(政令市、中核市)のランキングを行いましたが、都道府県(全65指標)に比べてより地域の幸福度を客観的に分析する上で、必要な公的統計データが十分に整備されていないことが改めて知らされることになったところです。

今後、住民により身近な基礎自治体において、幸福度の研究が一層重要になって来ることが想定されるため、自治体自ら地域の将来を考える上で必要となるデータや情報を取得する取組を検討することが大切と考えています。

2016年版の総合ランキング結果について、政令市では、さいたま市が1位、浜松市が2位、千葉市が3位、川崎市が4位、横浜市が5位となっています。上位には東京近接の政令市、及び自動車やオートバイ等のものづくり産業が集積している都市が入っています。中核市では、豊田市、長野市、高崎市、岡崎市、金沢市が上位5位となっています。豊田市は自動車産業という強固な産業基盤の実体から、基本指標、仕事や教育分野で1位を占めていることが要因と考えられます。長野市は健康や仕事分野が高く、高崎市はどの分野もバランスよく上位を占めていることが特長と考えられます。徳島県内には中核市がなく、今後県庁所在都市の分析も併せて検討することが必要と考えています。

(3)複数指標の組み合わせでランキングを算出

2016年版では、地方創生を進める上で重要な政策課題と考えられる「移住」、「女性の活躍」について客観的なデータを使って分析を行っています。以下では、移住問題について、移住者の幸福をどのように考えるか、若い世代のIターンや退職したサラリーマンの第二の人生に「地方暮らし」を選ぶ人が増える傾向にあるため、特に子育て世帯とシニア世帯の観点から説明します。

移住を考えたとき、子育て世帯が重視することは「安定した収入」、「仕事と子育ての両立」、「子育て支援」、「教育」などが必要になります。こうした必要と考えられる条件を測定する指標を全65指標から10指標を抽出し、子育て世帯にとっての「移住幸福度ランキング」を行っています。福井県、石川県、富山県、秋田県、山形県が上位5位となっています。徳島県は17位であり、総合順位(37位)に比べると子育て世帯の移住幸福度ランキングは相対的に高いと考えられます(表3-1「指標一覧(子育て世帯)」、表3-2「移住幸福度ランキング(子育て世帯)」参照)。

一方、シニア世帯にとっての「移住幸福度ランキング」は、鳥取県、長野県、島根県、山梨県、福井県が上位5位となっています。シニアが重視することは健康で生きがいをもって暮らし続けられるかどうかという点にあり、健康寿命、社会教育費、高齢者ボランティア活動者比率等の指標において、いずれの県もバランス良くカバーしていることから、高齢者が学び続ける環境と社会参画のしやすさを兼ね備えた土地柄といえます(表3-3「指標一覧(シニア世帯)」、表3-4「移住幸福度ランキング(シニア世帯)」参照)。

結び

本書を含め膨大な公的データ等を収集・解析し、1年おきに幸福度研究の成果を発表・出版することで、全国の自治体関係者やメディアを中心に多くの問い合わせ等が寄せられるようになりました。特に、4月の熊本の大地震を踏まえ、今後復興計画等が策定・推進される予定ですが、本研究の知見(幸福度指標)等を熊本市の復興構想・計画等に活用したいとの要望もあり、今秋以降具体的な協力・連携を進める計画です。

幸福度研究は、世界では国連や国際機関(OECD等)の他、各国でも継続的に研究が進められ、国民が求める「幸福」について多面的な観点から分析手法(指標設定やデータの考案・収集等)の開発が行われている状況です。

こうした状況もフォローしつつ、弊所でも引き続き幸福度研究の開発を進め、社会や地域のニーズに応えるとともに、地方創生に少しでも貢献できるようさらなる進化を図る考えでいます。