幸福度ランキング第6弾―新しいステージの始まり

新しい段階に入った県民幸福度研究

9月28日、第6弾として『全47都道府県幸福度ランキング(2022年版)』を弊所グループ内の日総研出版より発刊いたしました。これまで2012年版から2020年版までの5冊は東洋経済新報社より発刊してきましたが、弊所の幸福度研究も10年を数え、これを契機に東洋経済新報社の了承を得て、また時勢(社会動向)に合わせる形で刊行形態を変えることといたしました。

変更点は、大きく2つです。第1は、出版部門の協力の基に書籍のデザイン、体裁(サイズ)を一新しました。それに伴い、定価も2020年版に比べて低く抑えることができました。また、サイズが大きくなったことで活字も読みやすくなったと考えています。第2は、書籍の刊行とともに、新たな試みとして「分析ツール同梱版」を提供・発売することとしました。第6弾の発刊にいたる幸福度ランキングで使用したデータが豊富に蓄積され、これをリリースすることで、行政や多様な主体によるエビデンス(データ活用)に基づいた様々な取組みやプロジェクトが全国で推進されることを期待し、新しい段階の幸福度研究に資すると考えた次第です。本分析ツールでは、使用したデータのうち22,795のビッグデータ(都道府県が6時点:19,035データ、政令指定都市が4時点:3,760データ)が活用できます。

一方で、5冊刊行までに積み重ねてきた「日本総研アプローチ」の基本軸(基本および分野別の指標構成、ランキングの解析方法、時勢を考慮した追加指標の選定等)はぶらさず踏襲しています。2022年版では、新たに危機対応力とSDGsに関連する5指標を加え、都道府県ランキングでは全80指標で地域の魅力や課題を体系的かつ徹底比較できる内容に注力しています。単に順位に一喜一憂することなく、的確な時代認識に基づいて、自らが、各々の魅力を伸ばすとともに課題を解決するためのアクションを主体的に創り出すことを期待しています。

2022年版の書籍構成は資料1のとおりです。エビデンスに基づいた独自の幸福度指標を通して地域における幸福の「見える化」に取組む事例を第3章で紹介しています。

◆資料1:書籍(2022年版)の構成

5つの追加指標

2022年版では、社会の動向を踏まえ、新たな危機対応力として、「コロナ患者受入病床数」、「救急搬送困難事案件数」、「燃料供給に関する協定締結率」の3指標、SDGsに関連する既往指標に加え、教育機会の観点から「遠隔教育実施率」、ジェンダー平等の観点から「家事の男女負担割合」の2指標による5つの追加指標に基づく全80指標で全47都道府県ランキングを行っています。

◆資料2:都道府県80指標

47都道府県の幸福度ランキング結果(上昇している県の考察)

2022年版における47都道府県の総合ランキング結果は資料3のとおりです。以下では、青枠で囲った石川県、山形県、沖縄県の3県、赤枠で囲った岐阜県、秋田県、栃木県、大分県、福島県の5県について、①なぜ2012年版以降毎回順位が上昇しているのか、②なぜ2020年版と比べて今回順位が上昇しているのか、その注目ポイントをそれぞれ簡潔に考察します。

◆資料3:47都道府県ランキング結果(2022年版)

〇石川県

6時点の順位は、9位、6位、5位、4位、4位、2位となっています。各分野が10位以内と抜群のバランスを誇っています。2012年版と比較すると、文化分野(35位→3位)が大幅に上昇しており、中でも「常設映画館数(38位→1位)」、「語学教室にかける金額(25位→1位)」など、積極的に文化に親しむライフスタイルが定着しつつあります。北陸3県はランキング上位ですが、ランキング1位の福井県(文化分野41位)、4位の富山県(文化分野34位)であり、文化分野に大きな差異があることがわかります。

〇山形県

6時点の順位は、31位、27位、22位、10位、8位、7位となっています。この間、各分野で着実に躍進していることが特徴です。2012年版と比較すると、仕事分野(33位→13位)の上昇が目立ち、中でも「正規雇用者比率(6時点→1位)」の高さや「高齢者有業率(32位→7位)」の他、生活分野の個人領域(9位→5位)の「一人暮らし高齢者率(6時点→1位)」、「持ち家比率(6時点→3位)」を見ても、雇用の安定と家族の支え合いによる幸福な社会生活の基盤が充実していると言えます。

〇沖縄県

6時点の順位は、47位、47位、46位、45位、45位、44位となっています。下位ながら少しずつ上昇しています。2012年版と比較すると、文化分野(45位→28位)が上昇しており、特に国際領域の「外国人宿泊者数(3位→1位)」、「海外渡航者率(34位→17位)」、「留学生数(30位→19位)」など、異文化交流が一層進展している様子が伺えます。また、健康分野も15位→13位と高く、沖縄固有の県民性や医食同源など食文化を活かした取組みで幸福度を高めることが期待されます。

◇岐阜県

2020年版と比較して今回上昇した注目ポイントは、基本指標(25位→18位)、健康分野(9位→5位)であり、中でも「財政健全度(14位→4位)」、「気分障害受療者数(8位→3位)」、「健康寿命(15位→7位)」の上昇が影響したと考えられます。

◇秋田県

27位→17位へと大きく上昇した注目ポイントは、基本指標(7位→7位)、教育分野(5位→5位)が高い水準を維持し、さらに健康(35位→27位)、文化(31位→25位)、仕事(43位→39位)、生活(28位→21位)であり、各分野で着実に上昇したこと、また追加指標「救急搬送困難事案件数(1位)」が影響したと考えられます。

◇栃木県

今回上昇した注目ポイントは、健康分野(12位→7位)、教育分野(31位→23位)であり、中でも「生活習慣病受療者数(14位→6位)」、「健康寿命(22位→11位)」、「学力(26位→19位)」、「社会教育費(26位→15位)」の上昇が影響したと考えられます。

◇大分県

今回上昇した注目ポイントは、健康分野(15位→8位)、文化分野(16位→6位)であり、中でも「健康寿命(9位→2位)」、「常設映画館数(16位→3位)」、「留学生数(5位→4位)」の上昇とともに、追加指標「燃料供給に関する協定締結率(1位)」が影響したと考えられます。

◇福島県

今回上昇した注目ポイントは、健康分野(28位→21位)、文化分野(33位→23位)、教育分野(44位→38位)であり、中でも「生活習慣病受療者数(34位→11位)」、「教養・娯楽支出額(32位→16位)」、「学童保育設置率(40位→32位)」の上昇が影響したと考えられます。

幸福度ランキングを読み解くポイント

上記では、主に2つ(①、②)の観点から上昇した注目ポイントについて経年変化を主眼に簡潔に考察しましたが、重要なことは各県それぞれに上昇指標とともに下降指標(課題)にも気づき、多面的な議論と対策が実施されることがこの考察のヒントでもあります。

例えば、石川県の上昇には北陸新幹線の開通効果が、山形県の上昇には長期計画やビジョンに基づく明確な県政運営が、大分県の上昇には立命館アジア太平洋大学の影響など、順位とともに指標に裏打ちされた要素を深く読み解き、各々の用途に的確に活かすことが重要と考えています。順位の変動については、全国の相対比較であり、仮に当該県が重点的に施策を打ったとしても、他県がそれ以上に有効な施策を実施していれば、順位の上昇はすぐには表れないことにも留意が必要です。

以上を踏まえ、幸福度ランキングをどのように活用すればいいか、そのためにはどのようにランキングを読み解けばいいか、本書では5つの視点から体系的にポイントを整理しており、ここでは、見出しのみ紹介します。

  • ポイント1:地域の強み(魅力)・弱み(課題)を把握する
  • ポイント2:現行指標・先行指標で見る
  • ポイント3:順位の変化を経年変化で見る
  • ポイント4:分野・指標間の関連性を見る
  • ポイント5:他の都道府県との比較や広域(ブロック)で見る
  • 基礎自治体の幸福度ランキング結果

    (1)政令指定都市

    都道府県の幸福度ランキング結果と同じく政令指定都市の結果についても、青枠及び赤枠で表示したものが資料4です。川崎市、神戸市、北九州市は毎回順位が上昇しており、京都市、熊本市、静岡市、大阪市は2020年版と比べて今回順位が大きく上昇していますが、考察については次回とし、資料のみ共有いたします。

    ◆資料4:20政令指定都市ランキング結果(2022年版)

     (2)中核市

    都道府県の幸福度ランキング結果と同じく中核市の結果についても、赤枠で表示したものが資料5です。中核市では毎回順位が上昇した市はなく、赤枠のみの表示になっています。福山市、佐世保市、奈良市、郡山市、豊中市、和歌山市は2020年版と比べて今回(5位以上)順位が上昇していますが、考察については次回とし、資料のみ共有いたします。

    ◆資料5:48中核市ランキング結果(2022年版)

    茨城県の事例紹介

    2022年版では、エビデンスに基づいた独自の幸福度指標を通して地域における幸福の「見える化」に取組む茨城県の事例を第3章で紹介しています。

    茨城県は、令和4年度から4年間の県政運営の基本方針となる「第2次茨城県総合計画『新しい茨城』への挑戦」の策定にあたり、県民一人ひとりが未来に希望を持つことができ、自身のなりたい自分像に向かって一歩でも二歩でも近づいていけることを「幸せ」と定義し、そのような環境の整備・充実状況を「見える化」するため、新たに「いばらき幸福度指標」を導入し、2022年3月に公表しました。

    同指標は、政府統計などの客観指標を用いて茨城県の幸福を「見える化」し、毎年度、全国順位を算出するという点で、都道府県としては初の取組みと言えます。また、指標(データ)に基づき全国順位の算出を行うことで、茨城県の相対的な立ち位置を客観的に確認し、政策課題の明確化を図るという点においても、健全な自治体経営に繋がる画期的な試みと受け止めています。こうした取組みが全国に普及・定着することを大いに期待しています。

    指標の選定方法や幸福度の算出方法については、本書との類似点や違いも見られますが、4つの政策目標(チャレンジ)を柱にそれを実現する視点から、全38指標で評価を行い、順位(スコア)をつけています。それによると、総合順位は全国9位となっています(資料6参照)。

    ◆資料6:茨城県の事例紹介

     

    分析ツールのご紹介

    今回から書籍単体の刊行とともに、行政をはじめ多様な主体の関係者を想定した「分析ツール同梱版」をリリースすることとしました。本ツールを活用し、主体的に地域の幸福度を分析して地域課題の解決や地域創生に資する取組みが促進されることを強く期待しています。

    分析ツールは、①ランキング作成キット(篠澤キット)、②データ集、③データ活用の手引き、の3点セットの内容となっています(資料7参照)。

    ◆資料7:分析ツールのご紹介

    データ活用の手引きを用いて、本書の指標・ランキングに基づく「自らの地域の幸福度分析の深化」や本書の指標とともに、「自らの関心のある指標を加えた独自のランキングの作成」も可能です。

    具体的には、多様な時系列分析や独自の指標により移住促進をはじめ高齢化対策や産業振興など様々な地域課題やテーマ毎にランキングの作成や分析に活用できます。例えば、手引きの活用例では、5つのライフステージのうち、子育て世代を取り上げ、実際に独自の新規指標を加えた10指標を基に全国のどの地域に住めば幸福度が高いかを分析・紹介するなど、使い易く応用性の高い内容となっています。

    新しい試みである分析ツールを積極的に活用して頂くため、リリース前に主な利用者(行政、大学・研究機関、民間事業者等)にテストシミュレーションにご協力頂き、多くの示唆を賜わるとともに、それを踏まえて一定の改良を行い完成版といたしました。

    結び

    発刊後、1週間が経過しましたが、書籍及び分析ツールを多くの皆様に手に取って頂き、積極的に活用して頂くことが重要なミッションと考えています。このため、周知・広報活動の一環として発刊当日(9月28日)、一般向けに「活用ウェビナー」を開催しました。この模様は動画編集し、弊所サイトで公開していますので視聴して頂ければ幸いです(『全47都道府県幸福度ランキング 2022年版』発刊のお知らせ)。

    また、10月13日には主に行政・メディア関係者向けに監修者も出席し、「発刊公開フォーラム」を都内の都道府県会館で開催する予定です。

    リリース後、利用申し込みや問い合わせを頂いていますが、主な利用者と想定していなかった主体(県立図書館)からも利用申し込みが来ており、監修者が強調する「地域に生きる幸福とは何か」を住民自らが主体的に探究・分析する動きが各地域に広がることを期待しています。改めて、関係する皆様のご支援・ご協力をお願い申し上げる次第です。