ふくしま総合災害対応訓練機構の設立

防災研修拠点整備に関する検討(FSフェーズ)

弊所は、経済産業省の平成29年度「福島イノベーション・コースト構想実現可能性調査等補助事業」を他の関係企業と共同で実施し、2018(平成30)年3月に事業成果調査報告書を取りまとめました。本FS調査は、福島復興に防災面から貢献することを主眼に、「防災研修拠点」整備に向けて有効な研修・訓練プログラムの選定とプログラム実施に必要な施設等について、財務的及び経済的実現性の評価を行い、その結果をもとに総合的分析による複数の事業スキームを検討したものです。

このうち、最も実効性の高いスキームとして、国の支援のもとに福島県が先行して整備中の「福島ロボットテストフィールド(RTF、2019年度末全面開所予定)」の各施設を最大限活用した「防災研修拠点」とすることが適正との分析(初期費用を極力減らし、小さく産んで大きく育てるとのシナリオ)に基づく事業化を推進することにしたものです。

そして、本拠点の主な要件としては、①福島(特に浜通り地域)の復興(産業振興等)への貢献、②オールハザード対応への支援、③多機関連携訓練が実施可能、④危機対応能力の強化に資する、の4つが必要との内容です。また、FS調査結果を受けた2018年度の事業化フェーズにおける関係方面との意見交換等を踏まえ、RTFの特長と集客を考慮し、新たにロボットと人間の融和・協調、も要件として必要と考えています。

(注)福島イノベーション・コースト構想
福島イノベーション・コースト構想とは、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです。廃炉、ロボット、農林水産、エネルギー、環境リサイクルの各分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでいます。

弊所の責務と機構設立に向けた諸活動(事業化フェーズ)

弊所は、FS調査結果の取りまとめにおいて中心的な役割を担った経緯から、本結果を次のステップ(事業化)に繋げることが重要な責務と考えています。すなわちFS結果を活かした事業化を通じて、甚大な被害に見舞われた福島の復興(現在も浜通り地域を中心に約4万人の県民が帰還困難な状況等)に少なからず貢献することが必要との観点から、2018年度を通じて、民間による福島イノベーション・コースト構想推進企業協議会(幹事企業:スリーエムジャパン、東京電力ホールディングス他)関係企業や福島県等の支援・協力を得ながら、事業化に向けて新たな組織の立ち上げに資する諸活動を推進しました。

具体的には、上半期の広報関係活動を踏まえ、10月から弊所が「(仮称)ふくしま総合災害対応訓練機構」設立準備会呼びかけ人代表、翌月から設立準備会会長を本年3月まで務め、他の呼びかけ人関係者、設立準備会副会長諸氏との密接な連携を得て、今般(2019年4月1日)、南相馬市内に「一般社団法人ふくしま総合災害対応訓練機構」(理事長は山内成弘日本エンコン(株)社長)が設立されました。

この間、12月にはNHK福島放送局の当準備会活動の放映、専用Webサイトの開設(https://www.fukushima-erti.com/)、1月以降は会員募集説明、関係企業を対象とする合同ワーキング開催、関係省庁や自治体との連携などを通じ、新たな事業組織の立ち上げに向けて積極的な事業化活動を行うとともに、事業計画やロゴマークの作成等の諸準備を実施し、本機構の設立に至った次第です。

第1回臨時社員総会(試行フェーズ)

FS及び事業化フェーズの諸活動の結果、関係各位のご協力も得て、4月より「(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構」がスタートしましたが、本年度(試行フェーズ)が、機構の今後の安定的な発展にとってカギとなる1年と考えています。

2020年4月、RTF(ロボットの研究開発や実証実験、性能評価、操縦訓練等)は全面開所になりますが、本機構も同時期に防災拠点機能に資する災害対応訓練事業他を本格的に開始する計画です。RTF(50haの広さ)は南相馬市の復興工業団地内に整備されていますが、交通アクセス(東京から約3時間、福島駅から約90分、仙台空港から約70分の距離)と宿泊施設の不足などに鑑み、当面は福島県内や隣接県をターゲットとした広報・営業活動が効率的と考えています。

従って、2019年度の上半期には、福島県内の関係機関(行政、経済団体・企業、消防、病院、学校、マスコミ等)を重点に広報・営業活動を推進するとともに、有用な訓練プログラムの開発に取組む方針です。下半期には、RTF内に機構の「RTFオフィス」を開設し、実際にニーズの高い訓練プログラムの試行を行い、詳細な検証を経て、2020年4月の本格稼働につなげる目論見です。また、年度内に機構の安定的な発展を見据え、人間とロボットが協調・協働するフルスケール多機関連携イベントを企画するとともに、RTFの特長を最大限に活用するため、人間とロボットの協調・協働型の訓練システムの実用化開発事業の選定案件にも積極的に取組む考えでいます。

このような2019年度の活動状況方針(全体)について、第1回臨時社員総会が5月24日に都内で開催され、議長(山内理事長)の議事運営のもと、第1号(社員総会規定)から第9号(第1期事業計画)議案までの審議が行われ、全議案が満場一致で承認されました。

機構の特徴と事業内容

(特徴)

本機構の特徴は、RTFの施設群を最大限に活用することで、座学のみならずオールハザードに対応した実践的な訓練の提供にあります。もう1つの特徴は、人間系災害対応訓練にロボットやICT・VR等の最先端の技術を活用する「わが国初、世界でも類を見ない」未来の災害対応訓練とともに、防災関連事業を営む企業に対して「RTFを活用した技術開発 → 人間系の災害対応訓練プログラムへの導入による実証 → 評価 → 改善」プロセスを提供し、社会実装を促す一体的な活動を指向していることです。

(事業内容)

事業内容は、オールハザードの災害対応訓練事業を中心に、シナジー効果を発揮できる以下の8つの事業分野にフォーカスしています(下図参照)。

(活動内容)

この他、機構内の主な活動内容として、以下の3つの委員会を設置し会員の積極的な参画を予定しています。

  • プログラム運営開発委員会:訓練プログラムの運営と開発に関する検討。
  • マーケティング委員会:プログラム運営開発委員会と連携して受講者募集・広報活動等を実施。
  • 訓練棟建設委員会:さらに多様で独自性が高く高質な訓練プログラムを実施可能とするための訓練施設設備の検討と建設に向けた活動を実施。

上記3つの委員会のうち、先行して活動を推進する必要があるプログラム運営開発委員会は、5月8日に第1回が開催され、秋からの試行に向け優先して提供する訓練プログラムの開発について、会員企業の意向や保有する知見・ノ―ハウ等を有機的に生かす方向で次回以降詳細を検討することが確認されました(次回は6月10日開催予定)。また、第1回委員会で、この分野に精通する熊丸由布治氏((株)日本防災デザイン)が委員長に選任されました。

(災害対応能力の認証)

本機構では、エビデンスに基づく高質な災害対応訓練の提供を基本方針としています。提供するプログラムは、専門認証機関(関連学会を含む)が求める要求事項を満たしており、機構が受講者に発給する修了証は、専門認証機関により認証されたものになります。また、法令で定められている研修・訓練(作業主任者のための労働安全衛生訓練等)の場合は、その要件を満たした訓練プログラムを提供する予定です。

結び―安定的な発展に向けて

本機構は4月にスタートしたばかりですが、安定的な発展に向けては多機関連携の促進がとても重要と認識しています。昨年来、各方面に機構設立の趣意を説明し、少しずつ賛同の動きもあり、特に福島県関係部署をはじめ国、関係機関、民間企業、大学など多様な主体から、幅広い支援・協力の声を頂いています。この声を具体的かつ着実に事業に結びつけ、機構設立の趣意である「福島の復興」、「防災立国日本の実現」、「危機管理能力の高い日本人の育成」という3つの目標を実現するべく、関係者一同の一層の奮起が必要と考えています。

また、災害が頻繁に発生し災害から逃れられないわが国にとって、防災や災害に専門的に従事する立場の人たちに加え、次代を担う小・中学生、高校生の「防災をテーマとした教育」、超高齢社会を迎え高齢者にも助けられるだけでなく助ける側に回ってもらえる「防災ジェロントロジー訓練プログラム」の提供も、わが国の防災力の裾野の強化に資する不可欠な取組みと認識しています。このような仕組と知見・データ等の蓄積は日本の未来の災害対応とともに、災害が多発する近隣アジア諸国等にも共有できるものと考えています。

機構では、会員制度を設け、広く企業・団体・個人の入会を募集しています。詳しくは、下記連絡先Eメールもしくは東京オフィスまでお問い合わせ頂ければ幸いです。多くの皆様のご賛同、ご入会を心からお願い申し上げる次第です。

(連絡先Eメール)info@fukushima-erti.com
(東京オフィス事務局)電話:03-5275-1615(一財)日本総合研究所調査研究本部内