余緑(よりょく)のある町 ー鳥取県日野町ー

もう10月に入り、秋の訪れを感じる頃になりましたが、今回は夏の里山でのプロジェクトについてお伝えしたいと思います。東京のデスクから離れた鳥取のフィールドでの話です。(写真は、もう季節外れになってしまいました。)

●日野町魅力化プロジェクトとは

このブログでお伝えするのは、私が8月下旬に同行しました鳥取県日野町での「日野町魅力化プロジェクト」についてです。このプロジェクトは、日野町地域おこし協力隊が中心となって実施され、首都圏の大学生を中心とした学生らに、4泊5日日野町の民家にホームステイしてもらい、その期間で町での体験を通して日野町の魅力や課題を発見してもらう、というプロジェクトです。ご縁があり、弊所も協力させていただいています。

●今回のプログラム概要

今回の参加者は、東京富士大学の学生10名、島根大学から1名、同行の私も含めて12名でした。観光、産業、生活の3チームに分かれてホームステイと町での体験プログラムを実施しました。体験プログラムの一部をご紹介します。

1.農作業体験

絶好の晴天の中、汗だくになりながらキャベツの苗植え。農業という自然との共生の営み、子どものように作物を大切に育てていることを教わりました。

2.観光スポット見学

金持ちと書いて、金持(かもち)神社。

3.日野川ラフティング

学生に大人気。地元ボランティアのスポーツ団体が運営しています。

最終日には、町への提案をプレゼンテーション。

  • 観光チームからは、日野町に点在する観光資源をサイクリングでつなぐ四季サイクリングツアー
  • 産業チームからは、全国的にはまだ知名度の低い金持神社のPR作戦
  • 生活チームからは、日野町の関係人口を増やすために、今ある資源を活かす作戦「『ひのサポ』増加計画」

が提案されました。

●日野町魅力化プロジェクトを通して…

日野町には「余緑(よりょく)」がありました。

「余緑」というのは9月4日付日本経済新聞の記事(時流地流「地方の『余白』に若者の視線」)をもとに、夏の山の緑色、田園風景と町民の方々のパワー(力)にひらめきを得て、私が造った言葉です。この「余緑」には3つの側面があります。

1.大自然の「余緑」

町には、山・空・田畑・作物…自然そのままの色にあふれていました。

2.町民の「余緑」

野菜・くだものやその調理法についての深い知恵を持った農家の方、ボランティアでカフェを運営している女性たち、日野高校の生徒さん、想いや目標をもって活動する協力隊の方、それぞれの方々が生きがいをもって支え合いながら生活されていました。

3.学生(ヨソモノ・ワカモノ)の「余緑」

24時間営業のコンビニが近くにある生活が当たり前の学生たちにとって、コンビニが1軒の町は、驚きの連続でした。そして、町の方と話すなかで都会の暮らしにはない魅力を発見していました。学生の余力、柔軟な発想、素朴な疑問が町にとっての刺激にもなっていました。

日野町には東京にはない「余白」や「余緑」がありましたが、その一方で他の地域にはない町の魅力はなにか、という決め手を探していました。今回の学生からの視点、提案を受けながら、人口約3,200人、高齢化率47%のこの町の多くの原石を磨くお手伝いをしていきます。構想の土台となっているのは、この町での生活や地域の資源を定量的に把握していき、可能性を探りながら「人と人をつなぐこと」と「日野の魅力からしごとをつくること」。そして私たちの持つ情報や知識も引き出しながら、現在、具体化に向けて動いています。

●追記1
~学生の有り余る力も引き出す、町の力~

この5日間で、学生は普段のコンフォートゾーン(快適空間)からストレッチゾーン(背伸び空間)へ何度も飛び出していました。聞いたこともない町・土地に踏み入れたことだけでもその一歩ですが、町での体験の中で何度も町の方々がさり気なく学生の背中を押してくれていたように思います。普段は言えないことをメンバーに伝えたり、普段できそうでしないことをやってみたり、そのことで「言って良かった」「意外と楽しい」という発見や気づきを得ていました。

環境も生活も違う方たちと話し、その土地に滞在した体験はきっと視点・視野を広げてくれたことと思います。また、このプロジェクトは、首都圏の大学生と地方の大学生(留学生も含む)とが交流する絶好の機会でもあります。今回、地方大学からの参加者は限られましたが、このような経験・体験を通じて、互いの考え方や生活の違いなどを理解し合い、刺激し合いながら、今後の学生生活・社会人生活につなげていってほしいと思っています。

※コンフォートゾーン、ストレッチゾーンについては以下を参照 http://www.nakahara-lab.net/2013/04/post_1992.html

●追記2
~メディアでも取り上げられました~

お世話になった町の方々にプロジェクトの記録として撮影した写真を本にして、お送りする準備が完了しました。

普段の仕事に、心をこめた「+α」を届けていける研究員を目指しています。